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色彩と質感の地理学−日本と画材をめぐって (3)

「フランスの色景」と絵画の色彩分析



中村:ということで、具体的な話に入っていきましょうか。三木さんが、港千尋さんと一緒に書かれた「フランスの色景」という本、まずはこれを起点にお話していこうと思います。

 

三木:港千尋さんは多摩美術大学の先生で、写真家・著述家なのですが、去年はあいちトリエンナーレの芸術監督をされていました。僕も「アーティストの虹―色景」というプロジェクトでディレクターをしてました。
 これは2014年の末に出した本でです。「色景」というのは造語なんですけど、景色の中に潜んでいる色彩感覚や配色の法則、色の風景などを表しています。
 ですから、フランスの日常風景などに含まれている配色の法則や色彩感覚がどういうものか、僕らが作った色彩分析ソフトを使って分析してみて、さらに日本との差異を比較するという試みなんです。
 港先生は奥様がフランス人だということもあって、フランス全土を回って写真を撮られています。フランス生活だけではなく、南米生活もされていますし、世界も随分回られていて、凄くユニバーサルに活動されています。
 港先生がフランス全土で撮った写真を厳選して、それを僕が色彩分析ソフトにかけて、そこからまた港先生にコメントをもらう、という方法でこの本は作っていました。
 このソフトでは、色相、明度、彩度の色立体が画像のピクセルを分布させることができるのと、画像から色名を抽出することができます。例えば、フランスの色名、日本の色名といった多言語の色名を出すことができるので、認知的な面からもどういう差があるのかわかります。
 ですから、色立体の分布や日仏の色名を抽出して、僕が分析してから改めて、港先生にコメントもらいます。結構、何気なく撮った風景から分布しているにも関わらず、わりと色彩理論とか色彩調和論に、ぴたっとくるものが凄く多かったんですね。
例えば、この写真のように、黄色と青色という対比的な配色はいろんなところに出てきます。

 

図

港千尋、三木学編著『フランスの色景―写真と色彩を巡る旅』青幻舎、pp.144‐125

 

図

港千尋、三木学編著『フランスの色景―写真と色彩を巡る旅』青幻舎、2014年、pp.146‐147

 

 

こちらは、フランスの色名と日本の色名の割合を出しているんですけど、この分析によって、該当する部分に言語があるかないかってということがわかります。

 

図

港千尋、三木学編著『フランスの色景―写真と色彩を巡る旅』青幻舎、2014年、p.152

 


この写真に関しても色相環で対比的な配色で合わせたり、トーンを合わせるとか、凄く色彩調和論で説明できるものが非常に多かったです。それは別にフランス人がわざわざそういうことを考えてるわけじゃなくて、無意識にやっていて、色彩感覚があるので、作る中で自然のうちにできるっていうことですね。これは建物、空間とか、建築とか、そういうものを抽出してますけど、食べ物とか、衣服とかも含めて環境全部にそういう傾向があります。

 

図

港千尋、三木学編著『フランスの色景―写真と色彩を巡る旅』青幻舎、2014年、pp.154‐155

 

図

港千尋、三木学編著『フランスの色景―写真と色彩を巡る旅』青幻舎、2014年、p.156‐157

 

 

中村:こんなブルーの看板とか日本人の感覚にないですよね。

 

三木:ないですね。なかなかおしゃれだと思うんですけど。港先生は、昔はこの看板はなかっただろうって書いてありますね。そういうものを上手く自分たちの感性に取り入れて、ちゃんと補色にしていたりしています。気持ち悪くないですよね?日本の看板みたいに取って付けた感がないっていうか…。

 

中村:調和していますね。

 

三木:港先生も写真家なりに色彩のバランスを考えて撮るので、それを分析するとある程度調和的になります。僕は写真家の作品の色彩分析というのも何回もしてるんですけど、写真家の個性って結構色彩に出るんです。例えば、海みたいに同じモチーフを撮ってる写真家はたくさんいますけども、その人の個性が出るのは色彩の部分だったりとかします。だから、色彩っていうのはわりとその無意識なんだけど、その人の感覚とか、個性みたいなものを色濃く反映するものなんですね。
 それでも町の人が自然に作った風景の写真にも関わらず、なんとなく調和するというのは写真家の感性だけの問題ではなく、やはり町の人々の感性も大きいですね。こういうことがなぜ日本ではできないのかっていうのが長年の僕の疑問だったんです。わりとこの本は、嫌味として作ってる部分あって、僕は奈良県出身で今でも奈良県に住んでるので、凄く古い町でありながら、何で町の中にとんでもない看板ができるのか、遠まわしですが気づいて欲しかったわけす(笑)。こういう風におしゃれにもできるんですよ、ということで。
 色立体の分布をみると調和していることが顕著にわかります。この色の反対の色が補色ということになります。色彩学的には一つの色を見てしばらくして、離したら反対の色が見えてくるっていう生理的な現象ですね。そういうものを上手く使ってるっていうことです。
 近代色彩学っていうのはニュートンやゲーテぐらいからできるわけなんですけど、補色的な考え方とか。その後、色彩調和論が活発になるのはシュブルールあたりからです。色を立体化するっていうのもこの辺りからなんです。そもそも色が色相環で回ってること自体が嘘と言えば嘘ですから。

 

中村:紫外線と赤外線で両端なのにそれをくっつけちゃって回っている(笑)。

 

三木:波長としてどんどん長くなるに、ぐっと曲げてるわけですから。それは元々その音楽との共通性があるというふうに、そもそもニュートンが考えて嘘ついたっていうか、これを1周させてるわけですね。だから、7つに分けたっていうのも、そういう音楽との影響ですね。
 このニュートンの色相環の図を見ると、オレンジとかレッドとかありますね。インディゴつまり、藍の部分なんかは実際に判別できず、助手が見えたとか書いていたりします。僕らが見ても分離できない色があるんですけど、わざわざ7つにしたかったっていう恣意性が非常に高いものですね。で、それを1周させたっていうのが音楽の影響です。だから、音楽理論から色彩調和論っていうのができているんですね。そして、平面だったものを立体にしていくっていうのが近代色彩学の流れですね。

 

図12

北畠耀『色彩学貴重書図説―ニュートン・ゲーテ・シュヴルールを中心に』日本塗料工業会、2016年、p. 25

 

 

それに対抗してゲーテがなんかが一応、補色関係の色相環を作ってますけども、これも一応、円にしています。そこから立体にしようというのがシュヴルールのあたりから出てきます。日本なんか、まったく円にもしないし、立体になんかしないわけですけど。こういう考え方はわりと西洋だからこそ生まれたんじゃないかなと思っています。だから、明度とか彩度とか色相とか、言いますけど、わりと西洋人的発想だなというふうには思います。この本にも書いていますけど、補色っていう考え方自体が凄く西洋思想的っていうか、テーゼとアンチテーゼとアウンへーべンみたいな、そういう西洋思想的な影響もあるじゃないかとは思っています。あるいは色彩の感覚が西洋思想を生んだのかもしれません。

 

図13

北畠耀『色彩学貴重書図説―ニュートン・ゲーテ・シュヴルールを中心に』日本塗料工業会、2016年、p. 42, 44, 48

 


シュブルールは、色彩の同時対比の法則を発見しています。もともとゴブラン織の研究所の監督をしていたので、2色を並べた時に色が違って見えるっていう効果があるので、クレームを受けることがあって、測色をしたら全然問題ないんだけども、横の色の並びによって影響を受けるっていうことを発見して、それで「色彩の同時対比の法則」っていう本を書くわけなんですね。それは1839年、ちょうど写真が誕生した年ですね。なので、写真の発明なんかとも同期してるんですけども。そこから色彩を立体にしてきます。
 それから、シュブルールの色彩調和論がありまして、類似の調和と対比の調和っていうことなんですけど、この色彩調和論は現在でも使われていて、これを少しアレンジしたもので、だからこの時代から実は変わってないってことですね。

 

図14

M.E. シュブルール『シュブルール 色彩の調和と配色のすべて』佐藤邦夫訳、青娥書房、2009年

 

 

 これを明確に現在みたいな立体にしたのマンセルです。マンセルが面白いのは、これは地理学の話とも関わるんですけど、地球儀をメタファーにして色彩球を作っています。中央から外にかけて鮮やかになっていき、中央あたりで最も鮮やかになり、上は白、下は黒のようにしています。この色彩の地球儀をくるっと回すと混色して灰色になるみたいな、そういうことを考えています。で、赤道あたりが鮮やかになるので、実際の地球とも通じていて、色彩の、知覚の地球儀っていうかね、そういうものを考えたというわけなんで、少し地理学の話とも後ほど関わってくるんじゃないかなと思っています。
 あと、シュブルールが平面の隣に同時に対比的な色を置いた時にどういう知覚効果が現れるかっていうことを理論化したのですが、それに影響を受けて、印象派などが積極的に取り入れたっていうふうなことなんですね。
 フランスの色景の特徴はやっぱり多色色相配色ですね。たくさんの色相を使っていることと、補色で多用していてます。マンセルは色立体でバランスをとることを、天秤のようだって言ってるんですけど、色空間の中でこっちに鮮やかであれば、こっちは少し彩度を落とすとか、空間の中で天秤のようにバランスを取るということをかなり言っています。こういう傾向があるということが分かりました。

 

図15

北畠耀『色彩学貴重書図説―ニュートン・ゲーテ・シュヴルールを中心に』日本塗料工業会、2016年、p.66

 

 

三木:このまま詳しく知りたい人は僕に聞くより本を買ってください。

 

中村:このランクロの「色彩の地理学」が、まさに今回のトークのタイトルの元になっています。

 

三木:そう。元々色彩と質感について話してくれって話になって、日本っていうネーションみたいな話じゃなくて、地理学な意味で扱いたいっていうんで、ランクロの「色彩の地理学」を紹介しました。これたぶん知ってる人は知ってると思うんですけども。フランスの有名なカラリストとして知られています。ランクロはですね、戦後の結構新素材みたいなもの影響を受けて、それを元々土着の色はなんだったかっていうことを調べるためにフランス全土を回って、そのあと世界を回るんですけど。そこの土着の色と写真と土質とか、デッサンとかによって分析していくっていう、面白い手法を使ってます。これフランスの土の採集で、元々土が持ってる色はどんなものかっていうことをやったりとか、それを1つの分析の方向を編み出したりとか、デッサン書いたりとか、実際こういうカラーチャートで測色したりとか、それをパターン化したりとか、そういうことをやっています。いろんな仕事をしてるんですけど、この人はプロダクトとか、建材とか、いろんな仕事をして、日本人なんかも影響を受けてる。これは位置や現場を分析して、次はそれをまた構成するみたいな方法を取っています。これは一つの考え方の参考になるんじゃないかっていうことを今回紹介しました。

 

図16

Jean-Philippe Lenclos, Dominique Lenclos, Colors of the World: The Geography of Color, New York, W. W. Norton & Co Inc, 2004.

 

 

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芸術色彩研究会(芸色研)は、芸術における色彩に関する研究を行い、色彩から芸術やその奥にある感覚や認知、感性を読み解き、実践的な創作や批評に活かすことを目指します。ここで指す色彩は、顔料や染料、あるいはコンピュータなどの色材や画材だけではなく、脳における色彩情報処理、また素材を把握し、質感をもたらす要素としての色彩、あるいは気象条件や照明など、認知と感性に大きな影響を及ぼす色彩環境を含むものであり、芸術史を感覚史的に読み直すことでもある。創造行為としての芸術は、環境と脳を含む身体の不断のフィードバッグの成果であり、芸術色彩研究会(芸色研)では、その情報交換を読み解く鍵として色彩を位置付けていく。
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