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色彩と質感の地理学−日本と画材をめぐって (9)

質感に関する研究について


 

三木:この話受けて僕がフェイスブックでそういうことを書いたもんだから、質感について話してくれって言われて、そんなに知らないので1から調べなくちゃいけなくて。それで最近、質感の科学という研究が日本でも活発になっておりまして、生理学研究所(当時)の小松英彦さんを中心に2011年から文科省の予算で大規模な研究グループで進めています。

 

中村:現在進行形の研究だということですね。

 

三木:はい。質感っていうものが世界的に研究課題になっていて、日本なんかでもかなり活発にやっているっていうことです。小松先生は質感認知を、感性的なものと知覚的なものという2つに分けています。ざくっと説明すると、物体の三次元形状と物体の光学的特性、照明環境からなる光線パターンによって脳が処理してるってことなんですけども。
 照明環境っていうのはライティングだけじゃなくて自然光と人工光も含めて。光学的な特性、反射率とか、そういう光線パターンを使ってそれを認識してるってことです。
 こういうものが今まで認知科学的、神経生理学的、脳科学的なところでやられてなかったんですね。特に2000年に入ってから重要なものが出だして、2010年に活発になりだしたっていうのが最近の、本当に最近のことです。僕も色彩のソフト作っていて、そういうメーカーには次は質感のことをやってくださいってよく言われました。その後、僕はそこから離脱したので、放置したらこんなに進んでたっていうことで驚きました。それで、小松先生実際お会いして。完全に関西人の方で安心しました(笑)。


中村:生理学研究所はどこにあるんですか。


三木:岡崎にあるんですね。行かれた方もいるかもしれないですが、生理学研究所の横に基礎生物学研究所ってあります。基礎生物学研究所は昨年大隅良典さんっていう方が「オートファジーの仕組みの解明」でノーベル賞取られました。
 小松先生は研究グループのリーダーなのですが、その本の中に、現在東大の先生をされている本吉勇さんという方がおられます。本吉さんは、絵画の様式はかなり気候に影響を受けていることをこの本で書いています。地域性みたいなものが人間の感性にどういう影響を与えるかっということが検証し始められているでんです。
 やっぱり太平洋、日本の気候みたいなものとヨーロッパの地中海性気候みたいなものは全然照明環境が違うので、それによって質感の知覚や感性に影響及ぼしてるということですね。小松先生は「色覚とは物体固有の表面反射率を知る機能と考えることができると前節で述べたが、それが広い質感或いは材質認知の機能の一部と位置付けられる」(小松英彦「色と質感を認識する脳と心の働き」『芸術と脳』大阪大学出版会、2013年、p.212)と書いています。ずっと色彩の話してましたけど、小松先生は、色彩というのは質感を認識するための一部の機能であるということを言われてるわけですね。

 

中村:色彩は各論なんだ。

 

三木:各論なんですよ。だから、要するに人間が生存するにあたって、遠くから見て光の状態の表れだけでこれが硬いとか、柔らかいとか、暑いとか、寒いということが分かるという、それが生存にとってもの凄い重要なことなんで。

 

中村:それが分からないと生死に関わりますからね。

 

三木:そうです。これが冷たいのか、硬いのか柔らかいのか、我々は分かりますよね。それってほとんど超能力ですよね。遠くからでも硬いか柔らかいか一瞬で分かるわけですから。凄く当たり前のことをやっていたっていう事実を突き止め始めたってわけですね。特にコンピュータグラフィックスが発達して、シミュレーションできるようになったからなんですけど。それとMRIみたいな脳のどこの部位が反応するかっていうのが分かるようになって、シミュレーション画像を見せてMRIでどこの部位が反応するか調べて、どこの部位が質感認知なのかっていうことを調べていくわけです。

 

中村:VRなんかも、そういうことが分かってないと作れないですもんね。

 

三木:それがないと、コンピュータグラフィックスもちゃっちいものになってしまいますね、逆にいえば、コンピュータグラフィックスが発達したから質感の研究もシミュレーションができるようになったわけです。
 先ほどの本吉さんの生態光学起源説というのは照明環境が絵画様式に影響を与えるという説ですが、光が強いと立体感があって、質感がしっかり現れているんですが、光が雲や空気の湿度で回り込んでしまうと平面的で質感はぼやけてしまうわけです。

 

中村:確かに我々の視覚の方は平面的なんですね。

 

三木:そうです。てかりが現れにくいので…。

 

中村:どちかというと空気遠近法的な認識になるってことですよね。

 

三木:そうそう。生態光学っていうのは知ってる方いるか分かりませんけど、J.J.ギブソンっていう視覚心理学者の人が作った言葉ですね。生態ってエコロジカルっていうことですけど。そういうようなものを引用しつつ、こういうことを言ってます。

 

中村:先ほど、質感の表現で、つるつる、ぴかぴか、てかてかみたいな言い方があったと思うんですけど、メールのやり取りしながら打ち合わせしてる時に、そのオノマトペの問題、語彙の関係と関連して、日本語にはやたら擬態語が多いっていう話がありましたね。

 

三木:その前の色名があるかなしかによってあるところ、ないところはノーネームランドっていうんですけど。

 

中村:ノーネームランド、色名がないところ。

 

三木:認知の外にあるみたいな感じです。そういうようなこと言うんですけど。その考え方でいうと質感に関してもこれだけオノマトペがあれば、質感の感覚も発達してるんじゃないかというような話を、小松先生の研究を知る前にそういうことを書いてたんですね。やっぱりオノマトペから質感を研究してる方おられます。

 

中村:なるほど。我々日本人は、日本人はっていうのもなんですけど、モンスーン気候に住んでる人間っていうのは色に関しての反応する幅は狭いかもしれないが、こっちのつるつる、ざらざらの方は幅がいっぱいあるぞと。

 

三木:たぶん。

 

岩泉:そのオノマトペを調べてたら、隈研吾さんは実は全部オノマトペで作ってるっていう本があって、だから事務所の中の会話は全部オノマトペなんです。つるつるのものとか、もしゃもしゃしたものとか、全部それで伝達するから、うちの事務所赤ちゃんっぽいんですよみたいなことを。


中村:岩絵具はよくざらざらっていうんですよね。僕も説明する時に、ちょっとざらざらしてるんですよって言ってるんだけど、それは英語にする時にどうすればいいのかなって。訳しづらい、当てはめづらいオノマトペもたくさんあるかもしれないですね。 ざらざらくらいはあると思うけど。

 

三木:それはやっぱりね、ざらざらを広めた方がいいと思いますね。

 

岩泉:ざらざらというものを。

 

中村:英語でもZARAZARAにする。


三木:やっぱり旨味みたいな形で。だから、やっぱり言葉がないから感覚が…。

 

中村:フィードバックされないんですね。

 

三木:やっぱり旨味っていうことも、旨味って名づけたことによって、これが旨味なんだっていう話。

 

中村:分かります。彼らはワインでも凄い変な表現とかするじゃない。「雨に濡れた子犬の毛皮の匂い」とか(笑)。彼らはそれで通じるわけですよね。だから、我々にもそういうことがあると。

 

三木:あると思います。

 

中村:要するに日本語っていうのはこの風土のなかでオノマトペが非常に発達してるのではないかという仮説があるってことですね。

専門家の人に聞いてみたい。

 

三木:また何かの機会でお呼びできればね、良いと思います。

 

中村:質感の研究というのはまさに今行われていて、これからいろいろなことが分かってくるのではないかということがわかりました。

 

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芸術色彩研究会(芸色研)は、芸術における色彩に関する研究を行い、色彩から芸術やその奥にある感覚や認知、感性を読み解き、実践的な創作や批評に活かすことを目指します。ここで指す色彩は、顔料や染料、あるいはコンピュータなどの色材や画材だけではなく、脳における色彩情報処理、また素材を把握し、質感をもたらす要素としての色彩、あるいは気象条件や照明など、認知と感性に大きな影響を及ぼす色彩環境を含むものであり、芸術史を感覚史的に読み直すことでもある。創造行為としての芸術は、環境と脳を含む身体の不断のフィードバッグの成果であり、芸術色彩研究会(芸色研)では、その情報交換を読み解く鍵として色彩を位置付けていく。
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